C/C++ の呼び出し規約

引数が関数へ渡される方法や関数から値が返される方法について規則を規定する多くの呼び出し規約があります。

Windows* OS の呼び出し規約

次の表は、Windows OS でサポートされている呼び出し規約をまとめたものです。

呼び出し規約	コンパイラー・オプション	説明
`__cdecl`	/Gd	C/C++ プログラムのデフォルトの呼び出し規約。変数引数を使用する関数で指定できます。
`__thiscall`	none	変数引数を使用しない C++ メンバー関数により使用されるデフォルトの呼び出し規約です。
`__clrcall`	none	関数がマネージドコードからのみ呼び出されるよう指定する呼び出し規約です。
`__stdcall`	/Gz	Win32 API 関数に使用される標準呼び出し規約です。
`__fastcall`	/Gr	引数がスタックではなく、レジスターで渡されるよう指定する高速な呼び出し規約です。
`__regcall`	/Qregcall。宣言で別の呼び出し規約が指定されない限り、コンパイル時に `__regcall` が関数のデフォルトの呼び出し規約であることを指定します。	インテル® コンパイラーの呼び出し規約で、レジスターでできる限り多くの引数を渡せるよう指定します。同様に、`__regcall` は値を返す際、可能な限りレジスターを使用します。この呼び出し規約は、変数引数を使用する関数で指定された場合は無視されます。
`__thiscall`	none	変数引数を使用しない C++ メンバー関数により使用されるデフォルトの呼び出し規約です。

Linux* OS と Mac OS* X の呼び出し規約

次の表は、Linux OS と Mac OS X でサポートされている呼び出し規約をまとめたものです。

呼び出し規約	コンパイラー・オプション	説明
`__attribute((cdecl))`	none	C/C++ プログラムのデフォルトの呼び出し規約。変数引数を使用する関数で指定できます。
`__attribute((stdcall))`	none	引数がスタックで渡されるよう指定する呼び出し規約です。変数引数を使用する関数では指定できません。
`__attribute((regparm (number)))`	none	IA-32 アーキテクチャー・ベースのシステム、Intel 386 では regparm 属性により、コンパイラーは最大 number で指定される個数の引数をスタックではなく、EAX、EDX、ECX レジスターで渡します。可変長引数をとる関数は、引き続きスタック上ですべての引数を渡します。
`__regcall` `__attribute__((regcall))`	-regcall。宣言で別の呼び出し規約が指定されない限り、コンパイル時に `__regcall` が関数のデフォルトの呼び出し規約であることを指定します。	インテル® コンパイラーの呼び出し規約で、レジスターでできる限り多くの引数を渡せるよう指定します。同様に、`__regcall` は値を返す際、可能な限りレジスターを使用します。この呼び出し規約は、変数引数を使用する関数で指定された場合は無視されます。

__regcall 呼び出し規則

__regcall 呼び出し規約はインテル® コンパイラー特有のものです。次の点に注意してください。

__regcall を使用するには、関数の宣言の前にキーワードを配置してください。次に例を示します。

__regcall int foo (int i, int j);

__attribute__((regcall)) foo (int I, int j); (Linux OS および Mac OS X のみ)

利用可能なレジスター

パラメーターの引渡し/値の返しに使用可能なレジスター数は、基本的にコンパイラーにより予約されているレジスターを除く、プラットフォームで利用可能なすべてのレジスターです。次の表は、コンパイルのデフォルト ABI に応じた各レジスタークラスで利用可能なレジスターです。レジスターは表にリストされた順番で使用されます。

レジスタークラス/アーキテクチャー	IA-32 アーキテクチャー	インテル® 64 アーキテクチャー
GPR (注 1 を参照)	EAX、ECX、EDX、EDI、ESI	RAX、RCX、RDX、RDI、RSI、R8 - R15
FP	ST0	ST0
MMX	なし	なし
XMM	XMM0 - XMM7	XMM0 - XMM15
YMM	YMM0 - YMM7	YMM0 - YMM15
VEC	N/A	N/A
MASK	なし	なし

注 1: インテル® 64 アーキテクチャー・ベースの Windows* システムでは、R13 は引数渡しや値の返しには使用されません。予約済みとして扱う必要があります。

データ型の分類

パラメーターや戻り値はデータ型に基づいて分類され、次の表にあるようにそのクラスのレジスターで渡されます。

型 (符号なし/符号付きの両方の肩)	IA-32 アーキテクチャー	インテル® 64 アーキテクチャー
bool、char、int、enum、_Decimal32、long、pointer	GPR	GPR
short、__mmask	GPR	GPR
long long、__int64	注 3 を参照してください。また、「構造データ型の分類規則」も参照してください。	GPR
_Decimal64	XMM	GPR
long double	FP	FP
float、double、float128、_Decimal128	XMM	XMM
__m128、__m128i、__m128d	XMM	XMM
__m256、__m256i、__m256d	YMM	YMM
__m512	N/A	N/A
complex <type>、struct、union	「構造データ型の分類規則」を参照してください。	「構造データ型の分類規則」を参照してください。

注 2: 構造化型のため、GPR クラスの分類が使用されています。

注 3: IA-32 アーキテクチャー・ベースのシステムでは、これらの 64 ビット整数型 (long long, __int64) は、2 つの 32 ビットの整数フィールドの構造で実装されているかのように、GPR クラスに分類され、2 個のレジスターで渡されます。

関連クラスのレジスターよりもレジスターのサイズが小さい型は、下位のレジスターで渡されます。例えば、float は XMM レジスターの下位 4 バイトで渡されます。

構造データ型の分類規則

構造体/共用体および複素数型は、次の例外を除いて x86_64 ABI と同じように分類されます。

構造体の全体のサイズの制限はありません。
基本型のレジスタークラスは「データ型の分類」を参照してください。
IA-32 アーキテクチャー・ベース・システムの場合、4 バイトで分類されます。その他のアーキテクチャー・ベース・システムの場合、8 バイトで分類されます。

レジスターまたはスタックへの配置

「データ型の分類」と「構造データ型の分類規則」で説明されている分類の後、パラメーターと戻り値は利用可能なレジスターで指定されたレジスターに入るか、または次の説明に従ってメモリーに配置されます。

データ型の値の各チャンク (インテル® 64 アーキテクチャー・ベースのシステムの場合は 8 バイト、IA-32 アーキテクチャー・ベースのシステムの場合は 4 バイト) にレジスタークラスが割り当てられます。利用可能なレジスターからレジスターを十分利用できる場合には、値全体がレジスターに渡されます。そうでない場合は、値はスタックを使用して渡されます。
1 つまたは複数のレジスタークラスが使用される場合、利用可能なレジスターの表のこれらのクラスのレジスターが表の順番のとおりに使用されます。
必要なレジスタークラスのいずれかで利用可能なレジスターがない場合は、値全体がスタックに配置されます。

値を保持するレジスター

次のレジスターは、パラメーター渡しや値の戻しで使用されない限り、呼び出し間でその値を保持します。

レジスタークラス/ABI	IA-32 アーキテクチャー	インテル® 64 アーキテクチャー
GPR	ESI、EDI、EBX、EBP、ESP	R10 - R15、RBX、RBP、RSP
FP	なし	なし
MMX	なし	なし
XMM	XMM4 - XMM7	XMM8 - XMM15
YMM	XMM4 - XMM7	XMM8 - XMM15
VEC	N/A	N/A
MASK	K4-K7	K4-K7

その他のレジスターでは、この呼び出しで値は保持されません。

修飾

__regcall とともに使用される関数名には修飾子が付きます。特に、従来のマングル化が発生する前に __regcall__ が先頭に追加されます。例えば、foo 関数は、__regcall__foo のように修飾子が付きます。これにより、異なる呼び出し規約に従う名前に不適切にリンクされないようにすると同時に、foo で行えるあらゆる操作 (デバッガーへのブレークポイントの設定など) を行うことができます。