Docker Desktop 4.43 では、AI モデルおよび MCP (Model Context Protocol) ツールの実行、管理、セキュリティを簡素化するための、強力なアップデートが一挙に追加されました。
Model Runner には、モデル管理の改善、OpenAI API との互換性拡張、実行時の動作に対するきめ細やかな制御が加わりました。MCP Catalog は、MCP サーバーの検索や利用がより簡単になるよう改善され、自分自身で MCP サーバーを提出する機能も新たに追加されました。
MCP Toolkit は、VS Code や GitHub との統合を強化し、セキュアな認証のための OAuth サポートも内蔵されています。さらに新機能「Compose Bridge」により、ローカルの compose.yaml ファイルを Kubernetes の構成に 1 コマンドで変換できます。
これらのアップデートにより、エージェント型 AI アプリケーションの開発プロセスが簡素化され、ローカル開発から本番環境への移行がさらにスムーズになります。
Model Runner ~ モデル管理の改善と OpenAI API の互換性拡張
このリリースでは、Docker Model Runner のユーザーインターフェース (UI)、推論 API、および内部の推論エンジンを改善しました。
モデル カードの表示機能
まず UI では、Docker Desktop 上から直接、Docker Hub に既にプルされたモデルや、AI カタログ内のリモート モデルをモデル カードとして確認できるようになりました。以下のスクリーンショットはそのモデル カードの例です。

CLI コマンドの追加
GUI の変更に加えて、docker model
コマンドに以下の 3 つのサブコマンドが追加され、開発者はモデルをより効果的に監視、管理できるようになりました。
docker model ps
→ 現在メモリにロードされているモデルを表示docker model df
→ モデルおよび推論エンジンのディスク使用量を確認docker model unload
→ モデルのアイドルタイムアウトを待たずにメモリから手動でアンロード
WSL2 統合を有効にしている場合、これらの docker model
コマンドは WSL2 のディストリビューション内からも実行可能で、Linux ベースのワークフローを中断することなくモデルを操作できます。
API 機能の強化
API 側では、Model Runner により高度な OpenAI API 互換性と構成可能性が加わりました。特に、{"stream": "true"}
のツール指定が可能になったことで、Docker Model Runner 上で構築されたエージェントがより動的かつレスポンシブになります。
Model Runner の API エンドポイントは OPTIONS
リクエストにも対応し、既存ツールとの互換性が向上しました。加えて、CORS (クロスオリジン リソース共有) ポリシーのオリジンを Model Runner の設定画面から構成できるようになり、セキュリティと柔軟性の両立が実現されています。
モデルの実行制御オプション
モデル動作を詳細に制御したい開発者向けに、Docker Compose ファイルを通じて context-size
や runtime-flags
の指定が可能になりました。以下はその例です。
services:
mymodel:
provider:
type: model
options:
model: ai/gemma3
context-size: 8192
runtime-flags: "--no-prefill-assistant"
この例では、(任意の) context-size
と runtime-flags
を指定し、内部の推論エンジンの動作を細かく制御しています。使用されるランタイムはデフォルトでは llama.cpp
であり、利用可能なフラグの一覧はこちらを参照できます。
一部のフラグは Docker Desktop が出荷時に使用する安定構成を上書きする場合がありますが、ユーザーに推論バックエンドの完全な制御権を提供することを目指しています。なお、特定のモデル アーキテクチャには最大コンテキスト サイズの制限があります。詳細は Docker Hub 上のモデルカードに記載されています。
内部処理の改善
内部的には、推論プロセスのクラッシュ時のエラー報告が向上し、クラッシュしたエンジン プロセスの積極的な削除も追加されました。また、Docker CE における Model Runner の操作性も改善され、同時使用時の安定性や、Compose 上でのモデル プロバイダーのサポートが強化されました。
MCP Catalog & Toolkit ~ セキュアでコンテナー化された AI ツールの大規模活用へ
新しくなった MCP Catalog
Docker の MCP Catalog はユーザー体験を向上させ、開発者が自身のワークフローに最適な MCP サーバーをより簡単に検索、発見できるようになりました。
これまで通り Docker Hub からアクセスできるほか、Docker Desktop の MCP Toolkit 内や専用の Web リンクからも高速にアクセス可能になりました。
詳細はこちらをご確認ください。
MCP Toolkit の進化 ~ OAuth 対応と GitHub、VS Code との統合
多くの MCP サーバーでは、認証情報を環境変数として平文で扱っており、情報漏洩のリスクがありました。MCP Toolkit はこの問題を解決し、クライアントが MCP サーバーやサードパーティー サービスに対し、安全に認証できるようにします。
さらに、GitHub との統合により、OAuth 認証にも対応しました。これは、開発者が日常的に使用する GitHub との安全な統合を大きく容易にします。

GitHub MCP サーバーを設定するには、OAuth タブに進み、GitHub アカウントを接続し、サーバーを有効化して OAuth を許可するだけです。

MCP Toolkit は、任意の MCP クライアントに MCP サーバーを接続できるほか、Claude や Cursor といった人気クライアントにはワンクリックで接続可能です。
さらに、以下の CLI コマンドを使えば、VS Code プロジェクトに .vscode/mcp.json
を自動生成できます。
docker mcp client connect vscode

また、ユーザー設定に以下を追加することで、VS Code からグローバルに MCP サーバーを利用可能に設定できます。
"mcp": {
"servers": {
"MCP_DOCKER": {
"command": "docker",
"args": ["mcp", "gateway", "run"],
"type": "stdio"
}
}
}
接続後は、GitHub Copilot のエージェント モードでリポジトリ、Issue、プル リクエストにアクセスできます。
Compose Bridge ~ ローカルの Compose を Kubernetes にシームレス変換
多くの開発者がローカル環境の構築に Docker Compose を使用しています。今回、新たに導入された「Compose Bridge」により、ローカルの compose.yaml
を Kubernetes の構成に、たった 1 行のコマンドで変換できるようになりました。
Compose を Kubernetes に数秒で変換
Compose Bridge を使えば、Compose アプリケーションを Kubernetes に移行するためのプロセスが、これまでになく簡潔かつ柔軟になります。スマートなデフォルト設定とカスタマイズ可能なオプションにより、単純な構成から複雑なマイクロサービス構成まで幅広く対応できます。
必要な操作はこれだけです。
docker compose bridge convert
このコマンドを実行すると、以下の Kubernetes リソースが compose.yaml
から自動的に生成されます。
- デプロイを隔離するための Namespace
- 各 Compose 構成項目に対応する ConfigMap
- サービスの実行とスケーリング用の Deployment
- ポート公開に対応した Service(LoadBalancer を含む)
- Compose ファイルに記述された Secret(ローカル利用向けにエンコード済み)
- Compose のネットワーク構成を反映する NetworkPolicy
- Docker Desktop のホストパスストレージを使った PersistentVolumeClaim
このアプローチにより、ローカルの開発環境を Kubernetes 上にすばやく再現でき、本番に近い条件でのテストが可能になります。
柔軟な設定と今後の強化予定
より高度なカスタマイズが必要な場合は、Compose Bridge に備わっている拡張変換オプションを使って、各サービスのマッピングや生成される構成内容を細かく調整できます。
さらに、将来的には現在の Kubernetes クラスター構成に基づいて設定を生成する機能も予定されており、開発と本番の整合性を保ちながら、マニフェストの再作成を省くことが可能になります。
利用開始方法
Compose Bridge はすぐに利用できます。
- Docker Desktop をダウンロードまたはアップデート
- ターミナルを開いて以下のコマンドを実行
- カスタマイズ方法などの詳細はドキュメントを参照
docker compose bridge convert
まとめ
Docker Desktop 4.43 は、AI とクラウドネイティブ アプリケーション開発の交差点に立つ開発者にとって、実践的かつ強力なアップデートを多数提供します。
ローカルでのモデル実行、安全な MCP サーバーの検索や活用、Compose から Kubernetes への迅速な変換など、複雑な開発プロセスを大幅に簡素化しました。
エージェント型 AI プロジェクトの構築から、本番展開に向けたワークフローの拡張まで、制御性の向上、統合の強化、手動作業の削減を実現し、開発者の生産性を次のレベルへと導きます。
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*本記事は、Docker 社が提供している以下の記事から抜粋・転載したものです。
Docker デスクトップ 4.43:モデルランナーの拡張、MCPカタログの再考、MCPサーバー提出、よりスマートなゴードン
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