EVM とは?
EVM (アーンド バリュー マネジメント) は、コストとスケジュールのパフォーマンスを評価し、プロジェクトの進捗状況を測定するためのプロジェクト管理手法です。この手法は、予算に従ってプロジェクトの各活動に値を割り当てます。活動の完了は、プロジェクトの一部の目標を達成したことを意味し、出来高 (EV: アーンド バリュー (実際に完了した作業を金額などの価値に変換したもの)) はプロジェクト全体の進捗状況を測る指標となります。
特定分野のプロジェクトにおいては、コスト超過に悩みを抱えている組織は少なくありません。オックスフォード大学のある調査では、20 か国にわたる大規模な 10 のプロジェクトのうち、9 つがコストを超過し、実際のコストは承認された予算より平均 28% ほど高かったことが分かりました。
コスト超過のほとんどは、取り返しのつかないような大きな失敗で発生するわけではありません。ProjectTimes.com (Chris Ronak) に記載されているように、「プロジェクト実行中に発生する段階的なコスト超過の積み重ねがほとんどである」としています。これらの多くは避けるのが難しいですが、最終的に制御不能になり、大きなコスト超過を引き起こす可能性があります。EVM は、複雑で拡大しがちな防衛関連のプロジェクトを管理する方法として利用されていますが、その他のプロジェクトにおいてもコスト超過を防ぎます。
EVM の仕組み
EVM は、予算、出来高、実際のコストの概念に基づいており、その主な利点は、単純なコスト比較ではできない方法で進捗状況とパフォーマンスを比較できることです。まず、EVM の概念を説明する例を紹介します。
予算が 300 万円で 30 日間のプロジェクトが進行しているとします。20 日目に予算の 200 万円に達した場合、プロジェクトは予定どおりに進んでいると想定するでしょう。
しかし、この仮定は誤っている場合があります。実際にはプロジェクトの半分しか完了していないにもかかわらず、予算の 3 分の 2 を使っている可能性があります。作業が半分しか完了していないのに、予定された作業日数の半分以上が経過しているため、プロジェクトには (期限に間に合わせるために) 残業または延長が必要になる可能性があります。もちろん、逆も考えられます。プロジェクトのコストが予想よりも低かったり、期限前に完了したりする場合もあります。
EVM では、予定しているプロジェクトの各作業に、それが占める総作業の割合に基づいて予算の一部が割り当てられます。これは計画値 (PV: プランド バリュー) と呼ばれ、通常は累積します。前の例で見てみると、15 日後に完了する予定の作業がプロジェクト全体の 50 パーセントを占めるとし、計画値として 150 万円を割り当てるとします。15 日目に、計画値と出来高を比較します。計画値と出来高が等しい場合、プロジェクトはスケジュールどおりに進んでいます。計画値が出来高より大きい場合、プロジェクトは遅延していて、計画値が出来高より小さい場合、プロジェクトが早く進んでいます。この比較により、プロジェクトがスケジュールに対してどのように進んでいるかを明確に把握できます。
もう 1 つの重要な指標は実際のコストです。これは、特定の時点で費やされた合計金額です。たとえば、15 日目に計画値と出来高が等しくなると (それぞれ 150 万円)、プロジェクトはスケジュールどおりに進んでいることがわかります。ただし、実際のコストが 200 万円など高くなると、プロジェクトはスケジュールどおりではあるものの、予算を超過しています。
これは、EVA (アーンド バリュー アナリシス) と呼ばれ、パフォーマンスの範囲、時間、コストの側面を考慮する最も包括的な傾向分析手法です。リアルタイムで使用する EVM は、パフォーマンスを予測するための非常に効果的な方法です。
EVM の目的と利点
効果的な EVM は、マイルストーンとなるいくつかの目標が中心になります。
時間軸に沿った予算をプロジェクトの包括的な内訳に紐づける
EVM の基本概念は作業に価値を割り当てることなので、最初のステップは、計画したタスクに予算の一部を紐づけます。これには、作業分解構造 (WBS) を使用して作業を要素として定義します。WBS の基本要素はタスクであり、各タスクに予算の一部を割り当てます。
プロジェクトのベースラインを作成して、進捗状況とコスト パフォーマンスを評価する
すべての作業への値の割り当てが完了したら、スケジュールと予算を使用してプロジェクト ベースラインを作成します。プロジェクト ベースラインは、プロジェクトの進行に伴って予算がどのように使われるか、つまり、計画値がどのように出来高となるか、の予想を表します。これは、タスク間の依存関係を明確にし、プロジェクトの合計期間を計算するクリティカル パス メソッドなどのスケジュール ネットワーク分析を用いて作成します。プロジェクトを開始すると、この計画値と出来高を比較して進捗状況を評価したり、出来高を実際のコストと比較してコスト パフォーマンスを評価したりします。
プロアクティブなプロジェクト管理の実現のために、正確でタイムリーなデータを活用できるようにする
プロジェクトの追跡 (実際の進捗状況とパフォーマンスをプロジェクトのベースラインと比較すること) は、グラフを使用すると特に便利です。これらの視覚的な表現により、進捗状況とコスト パフォーマンスを追跡しやすくなるだけでなく、進捗状況とコスト パフォーマンスの目標が達成できるかどうかを予測できます。
EVM の強みの 1 つは、進捗状況とコスト パフォーマンスのデータを簡単に収集、共有し、将来の進捗状況とコスト パフォーマンスを予測できることです。EVM の指標は理解しやすく、コストとスケジュールの目標を達成できないと分かった時点で、データに基づいて意思決定できます。プロジェクトの基準、出来高、実際のコストの間に小さな差異が見られるのは正常ですが、大きな差異は予算超過に向かっていることを示している可能性があるため、修正が必要です。
出来高 (EV) : 主要な指標と概念
EVM は、わかりやすい値と指標により機能します。これらが何であるか、どのように機能するかを見てみましょう。
完了時の予算 (BAC: Budget At Completion)
プロジェクト完了時の予想総コストで、計画段階で WBS の各タスクにコストを割り当てて算出します。
計画値 (PV) または予定作業予算コスト (BCWS: Budged Cost of Work Scheduled)
計画値は、予定日までに完了するよう各タスクに割り当てた予算で、出来高と比較する基準値です。
次の式を使用して計画値を計算します。
計画値 (PV) = 完了予定の作業割合 (計画割合) × 完了時の予算 (BAC)
あるいは
PV = 計画割合 × BAC
計画値の仕組みは次のとおりです。100 日間のプロジェクトにおいて、毎日プロジェクトの 1 パーセントを完了する必要があるとします。プロジェクトに割り当てた合計予算 (完了時の予算 (BAC)) は 100 万円です。40 日目の計画値はいくらでしょうか。
全体の作業の 40% が 40 日目に完了するとわかっているので、次のようになります。
PV = 0.40 × 1,000,000 円 = 400,000 円
出来高 (EV) または予算作業コスト (BCWP: Budgeted Cost of Work Performed)
出来高は実際に完了した作業に割り当てられた予算 (価値) です。ここでの作業はプロジェクト全体のことではありません。計画値は完了予定の作業に割り当てた予算であり、出来高は実際に完了した作業に割り当てた予算です。
次の式を使用して出来高を計算します。
出来高 (EV) = 実際に完了した作業の割合 (完了率) × 完了時の予算 (BAC)
あるいは
EV = 完了率 × BAC
前の例では、予算 100 万円のプロジェクト (100 日間) の 40 パーセントが 40 日目までに完了すると想定しました。しかし、実際に完了したのはプロジェクトの 30 パーセントでした。したがって、次のようになります。
EV = 0.30 × BAC = 300,000 円
計画値と出来高を比較すると、プロジェクトは 40 日目に計画値より 10 万円不足しているのでプロジェクトが大幅に遅れることを示しています。
実際のコスト (AC: Actual Cost) または実際の作業コスト (ACWP: Actual Cost of Work Performed)
特定の時点で費やされた金額の累計で、通常、実際のコストは数式で計算しません。
40 日目でも 30% しか完了していない、100 万円のプロジェクト (100 日間) の例をもう一度見てみましょう。プロジェクトがスケジュールより遅れていることはわかっていますが、40 日目にはコスト面ではどうでしょうか。
40 日目の出来高は 30 万円です。つまり、これまでに 30 万円が費やされたと予想されます。しかし、実際のコストは 25 万円で、予定額より少ないことがわかりました。したがって、このプロジェクトはスケジュールより遅れていますが、実際のコストが示すように予算内で進んでいます。
完了時の見積り (EAC: Estimate At Completion)
プロジェクト進行中において、完了時の見積りは、プロジェクトを遂行するために必要な合計金額の予測です。EAC は、残りの作業を遂行するために予測した合計コストである完了見積り (ETC: Estimate To Complete) という別の値を使用して計算します。
ETC は、将来の支出が計画どおりに進むか、または (これまでの支出に基づいて) 調整が必要かに応じて異なる方法で計算します。前者の場合、次の式を使用して ETC を計算します。
ETC = BAC – EV
EAC は、すでに完了した作業の合計コスト (実際のコスト) と完了までの見積りとして計算します。
EAC = AC + ETC
40 日目に 30% 完了している 100 万円のプロジェクト (100 日間) では、まず ETC を計算します。
ETC = 1,000,000 – 300,000 = 700,000 円
次に、ETC と AC を使用して EAC を計算します。
EAC = 700,000 + 250,000 = 950,000 円
そのため、プロジェクトは合計コスト 95 万円で完了すると見積もられ、これは計画より 5 万円少ない額です。
BAC と EAC の差を完了時差異 (VAC) と呼びます。このプロジェクトの場合は以下となります。
VAC = 1,000,000 – 950,000 = 50,000 円
EVM における差異への対処
これらの値と指標は、EVM におけるいくつかの重要な概念の基礎を形成します。詳細は以下で説明します。
コスト差異 (CV: Cost Variance)
コスト差異とは、ある時点で完了した作業の予算 (その時点までの達成額) と、その作業を完了するために実際にかかったコストの差です。次の式を使用して計算します。
コスト差異 (CV) = EV – AC
コスト差異が正の場合 → 予算内
コスト差異が負の場合 → 予算超過
たとえば、100 万円のプロジェクト (100 日間) で、予算を下回っている 40 日目のコスト差異は次のようになります。
CV = 300,000 – 250,000 = 50,000
コスト パフォーマンス インデックス (CPI: Cost Performance Index)
関連する統計として、出来高と実際のコストの比率である CPI があります。
CPI = EV/AC
CPI が 1.0 より大きいの場合 → 実際のコストが予想よりも低い
CPI が 1.0 未満の場合 → 実際のコストが予想よりも高い
たとえば、予算を下回っている 100 万円のプロジェクト (100 日間) の 40 日目の CPI は次のようになります。
CPI = 300,000/250,000 = 1.2
バーンレート
CPI を使用すると、プロジェクトが予算内で完了するかどうかを測定するためのバーンレートと呼ばれる値を作成できます。バーンレートは次の式で計算されます。
バーンレート = 1/CPI
バーンレートが 1.0 より大きいの場合 → 予算を計画よりも早く消費している
バーンレートが 1.0 未満の場合 → 予算を計画よりも遅く消費している
CPI が 1.2 のサンプル プロジェクトの場合、バーン レートは次のようになります。
バーンレート = 1/1.2 = 0.83
スケジュール差異 (SV: Schedule Variance)
スケジュール差異とは、特定の時点までに完了すると予測した作業の値と、その時点で実際に完了した作業の値の差で、次の式で計算します。
スケジュール差異 (SV) = EV – PV
スケジュール差異がプラスの場合 → プロジェクトが予定より早く進んでいる
スケジュール差異がマイナスの場合 → プロジェクトが予定より遅れている
100 万円のプロジェクト (100 日間) で、スケジュールより遅れている 40 日目のスケジュール差異は次のようになります。
SV = EV – PV = –100,000 円
スケジュール パフォーマンス インデックス (SPI: Schedule performance index)
EVM と計画値の比率である SPI を計算します。
SPI = EV/PV
SPI が 1.0 より大きい場合 → プロジェクトが予定より進んでいる
SPI が 1.0 未満の場合 → プロジェクトが遅延している
たとえば、遅延している 100 万円のプロジェクト (100 日間) の 40 日目の SPI は次のようになります。
SPI = 300,000/400,000 = 0.75
しかし、SPI には問題があります。プロジェクトが完了すると、出来高は常に計画額と等しくなります。つまり、プロジェクトが予定より数か月遅れて完了したとしても、SPI は 1.0 になります。そのため、プロジェクト終了時の SPI は、プロジェクトの実際のスケジュール パフォーマンスを誤って表す可能性があります。
この問題は、 アーンド スケジュールの概念を使用して対処できます。 アーンド スケジュールは、作業が完了する予定だった時期と実際に完了した時期を比較する従来の EVM の応用手法です。
アーンド スケジュールでは、従来の EVM とは異なり、予算単位ではなく時間単位でスケジュールの差異を計算します。そのため、ここでいくつか新しい用語が出てきます。
アーンド スケジュール (ES: Earned Schedule)
進捗ポイントに到達すると予想される時間です。
実際の時間 (AT: Actual Time)
進捗ポイントに実際に到達した時間です。
アーンド スケジュールに従って、次の式を使用してスケジュール差異を計算します。
SVt = ES – AT
100 万円のプロジェクト (100 日間) を例とすると、40 日目に完了する予定だった作業が実際には 54 日目に完了したと仮定します。
SVt = 40 – 54 = –14日
スケジュール パフォーマンス インデックス (SPIt) は、次の式を使用して計算されます。
SPIt = ES/AT
100 万円のプロジェクトの場合は、次の通りになります。
SPIt = 40/54 = 0.74
これらの値を使用して、次の式でプロジェクト完了に必要な時間を予測することもできます。
完了予定時間 = AT + 予定残作業期間 (PDWR)
完了見積り (ETC) と同様に、プロジェクトの残りの作業がどのような進行パターンで進むと見込まれるかに応じて PDWR の計算方法を変えることができます。
EVM の導入
通常、大規模なプロジェクトでは、進捗状況を範囲、時間、コストの要件と照らし合わせて評価する EVM が取り入れられます。一方で、コストとスケジュールの要件がそれほど重要ではない小規模または形式ばらないプロジェクト向けに EVM を簡略化した「軽量版」もいくつかあります。これらは、シンプル、中級、上級で大まかに分類できます。
組織によっては、プロジェクトの出来高の実装範囲をしきい値で決めます。また、進行中のプロジェクトの仕様とプロジェクト マネージャーおよびプロジェクト チームのスキルに応じて出来高の実装を調整する組織もあります。
シンプルな実装
EVM のシンプルな実装では、パフォーマンスを評価するためのプロジェクト ベースラインの準備や実際のコストを考慮する必要がありません。代わりに、プロジェクトを一連のタスクとして定義し、各タスクに値を割り当て、ベースラインに関係なくプロジェクトの出来高の進捗状況を追跡するだけです。有用性は限られていますが、自動車製造など、コストの変動が少ない繰り返しとなるプロジェクトで、出来高率を比較するのに適している場合があります。
中級実装
EVM の中級実装では、プロジェクト ベースラインを考慮します。完了までの時間が重要となるプロジェクトには、中級実装を使用します。中級実装では、作業に値を割り当てるだけでなく、スケジュール ネットワーク分析とスケジュール モデルを使用して、プロジェクトにかかる予想時間を特定し、ベースラインを作成します。中級実装では、出来高を計画値ベースラインと比較し、スケジュールの差異を特定します。
上級実装
本記事で説明した EVM の全ての概念は、上級実装で活用されます。この実装では、出来高の追跡やプロジェクト ベースライン、実際のコストを組み込み、進捗やコスト、スケジュールのパフォーマンスを比較できます。
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